うんちく
最近のボイストレーニングの流行というか、大雑把な傾向として、
「チェストボイス、ミドルボイス、ヘッドボイスの三種類の声を出せるようになろう!」
「その三種類の声を、滑らかに繋げられるようにしよう!」
…という考えの人が非常に多いです。
だいたいチェストボイスが2オクターブ(女性の場合は1.5オクターブくらい)、ミドルボイスが0.5オクターブ、ヘッドボイスが0.5オクターブの合計3オクターブを出せるようになりましょうよ、と。
そしてそれを滑らかに繋げられるようになりましょうよ、と。
音域は広ければ広いほど便利だし、最近はやたらとハイトーンな曲が流行ってるしね。
もし「3オクターブなんて、あっても使い切れねーよ!!」と思ったとしても、「3オクターブ出せる」ってのは非常に効果的でして。
というのは、「3オクターブを滑らかに繋げられる」ということは、声帯の使い方と息の量のバランスがものすごくいい感じであり、そのバランスを取りながら自由自在に声を使えている、ということを示すからです。
逆に言えば、「3オクターブを滑らかに繋げられない」ということは、「声帯の使い方と、息の量のバランスが悪く、どこかに問題がある」ということを示すので、直せるなら直したほうがベターだよね、と。
自分の声域を知っておく
なので、とりあえず大切なのが、自分の声域、チェストボイスでどこからどこまで出せて、ミドルボイスは、ヘッドボイスは…というのを知っておくことです。
この話については、ニコニコ動画にいいものが上がってたのを紹介した過去記事がありますので、貼るだけにしておきます。
声域のチェックをして、ミドルボイスの練習をしてみよう(男声用)。 - 烏は歌う![]()
女声の場合は、チェスト最低音を1オクターブ弱上げて、声の切り替えポイントをおよそ3〜5度ずつ上げて考えてくれればいいかな、と。
自分の傾向をチェックする
で、この「適切な声区」ってやつを知った上で、このような図を考えて欲しいと思います。
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上の過去記事で紹介した動画でも少し説明されていますが、どうしても
「チェストボイスが一番大きな声量が出せて、ミドル、ヘッドになるにつれて声量は小さくなっていく」
「チェストボイスが音質的に最も太い声が出せて、ミドル、ヘッドになるにつれて音質はどんどん細くなっていく」
という傾向があります(やや大雑把な説明)。
なので、そのまんま声を出していくと、上の図のような声の出し方になってしまいます。
「太くて大きいチェストボイス」「中間くらいのミドルボイス」「細くて小さいヘッドボイス」の三種類が、ブツ切りになって存在していて、なかなか混ざり合うことがない状態です。
この状態で歌うと、チェストからミドル、ミドルからヘッドに移り変わるところで声質がガラッと変わってしまい、上手く構成を考えないと非常に気持ち悪い感じになってしまいます。
(もちろん、この「声の唐突な変化」を上手く使う歌手や曲もたくさん存在しますが。)
理想的にはこんな感じを目指したい。
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三種類の声が分離せず、滑らかに行き来できる状態を、「ミックス」できているといいます。
線が重なっているくらいの微妙な音域では、その前の声も後の声も出せる感じだといいですね。
で、「理想と、どのように離れているか」をしっかり考えるのが大切。
例えとして、ダメなパターンを羅列していくと…
・そもそもミドルボイス、ヘッドボイスが出せません状態
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割合的には男性に多い。
未訓練な男性だとE4とかF4くらいで「地声じゃもう出せません、それより上は完全な蚊の鳴くような裏声になっちゃいます」みたいな人が多いけど、だいたいこんな感じ。
女声だとA4とかB4くらいでもう出せなくなる、というタイプになる。
低〜中音域はしっかりした声を出せるんだけど、高音域になってくると声帯を完全にコントロールできず、声帯が閉じなくてヘッドボイスよりさらに弱々しい「ファルセット」になってしまう。
この場合、「チェストボイスの高音域を軽めに出す練習」と「ファルセットにせず、声帯を強く閉じてしっかりしたミドル、ヘッドボイスを出す練習」が必要になってくるわけですが、どっちから攻めた方がいいかは人によるので非常に難しいところである。
・全体的に引っ張りすぎで、ヘッドボイスが出せません状態
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自己流な感じで張り上げ気味に高音を出しているとなりやすい。
男性だとA4とか女声だとD5とかまで(要するに、J-POPカラオケなどでの一般的な最高音)あたりまでは出るんだけど、それ以上が全然出せない、裏声にするのも苦手、みたいなタイプ。
こういう場合は、とにかくチェストボイスやミドルボイスが重すぎなので、全体的に軽い声質も出せるようにならないと、喉にも悪い。
・出ることは出るけど、裏返っちゃいます状態
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…実は私がこれなんだ。
ちょっと軽めの声質の人や、本来の適性よりも低音を頑張って出している人とかに多いかも。
上二つの図のような症状を治そうとすると、経過的にこの状態になることも多い。
一応チェストボイスもミドルもヘッドも出せるけど、チェストボイスとミドルボイスの間に落差というか温度差があって、どうしても高音で「裏声感」が強くなりすぎちゃうタイプ。
こういう場合は、「チェストボイスを軽くする」方向か、「ミドルボイスをしっかり重めに出す」方向で調整しなければいけませんし、どっちのアプローチが効果的かはやっぱり人による。
・低音域が薄すぎます状態
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女性にたまにいる。(特に、声の高くて軽い人に多いかも。)
男性にも、ここまで極端では無いとはいえ稀にいる。(男性の場合むしろ声が低めの人に多く、妙に声量の無い人に多いタイプがこうかな。)
高音域には特に問題がないんだけど、とにかくチェストボイスが細くて小さくタイプ。
で、普通の人が「高くてキツイなー」と思うような音域を出させると、急に元気になったりする。
こういうタイプも、「三種類の声を上手く使えている」とは言えないので、要調整。
チェストボイスを鍛えてやると、チェストボイスが良くなるのはもちろん、ミドルボイスにもヘッドボイスにも声量やパワーや艶が増してくると思います。
まとめ
こんな感じでいくつか図で示してみましたが、実際には千差万別というか、人それぞれ別々な問題を抱えている状態だと思います。
モデル通りの問題を抱えているっていう人は、そうあるわけでもなし。
しかし、だいたいの傾向をつかむヒントにはなるかと思います。
闇雲に練習する、闇雲に高い声を出そうとすると、あんまり練習の効率が良くない上に、喉にダメージを与えたり、変な癖をつけてしまったりするので、こういう考え方を元に
「どこが、どのように上手く行ってないのか」
をしっかりチェックして、対策を立てましょう。
具体的な練習法はそのうちメモするかも。
おまけ
少し前にホッテントリになってた記事。
トップアーティストたちの声域を比較![]()
…まあだいたい平均的には3オクターブくらいで、それ以上の連中は計測方法がおかしいか、もはや人として何かがオカシイような気がしないでもない。
余談1
男性がある程度歌い込むと、だいたい
「全体的に引っ張りすぎで、ヘッドボイスが出せません状態」
「出ることは出るけど、裏返っちゃいます状態」
に二極化してくる。
で、さらに練習して三声区が滑らかに繋がるようになっても、なんとなくどちらか寄りになっちゃうように聞こえるんだよね。
たぶん生得的な適性とかあるんだろうなーと思う。
余談2
私は高校の頃から少し合唱やってたんだけど、そこではどちらかと言えば
・トップテノールは「出ることは出るけど、裏返っちゃいます状態」タイプの人間がやるもの
という風潮だったんだよね。
トップテノールはとにかく軽く柔らかく出せ!絶対に地声で引っ張るな!みたいな。
で、そこでは私はトップテノールやらせてもらって、「あれ、俺才能あるんじゃね?」みたいに思ってました。
しかし、大学に行って合唱サークル入ったら、
・トップテノールは「全体的に引っ張りすぎで、ヘッドボイスが出せません状態」タイプの人間がやるもの
という風潮だったんだわ。
とにかく高い声(G4、A4あたり)を太い声質で大きな声量出せるのが偉い!みたいな。
…で、そのギャップで私の発声は一時ぶっ壊れました。
パートもテノールとバリトンを行ったり来たりして、「俺には何ができるのか…何もできないのか…」と自信喪失して。
今日書いた記事のような知識があれば、ぶっ壊れることもなく上手く適応できたろうになー…と、今でもときどき悔しく思います。
余談3
昔はあんまりこの辺のノウハウが日本全国的になかったせいか、高音ボーカルと言えば、一部の「本物」を除いたら「全体的に引っ張りすぎで、ヘッドボイスが出せません状態」タイプの人がやるもんでしたね。
うるさいし、下手さというか粗さを感じるけれど、高音出せるのはこいつしかいないから仕方ねえか的な。
で、しばらく歌っては、喉を壊して消えていく、みたいな歌手も多かった。
しかし最近は、「とりあえずミドルボイス、ヘッドボイスが出せる状態にはできる」ノウハウが蓄積されてきて、「出ることは出るけど、裏返っちゃいます状態」タイプの人が高音ボーカルやってることも多いなーと感じます。
確かに楽に高音出せてるんだけど、ちょっとパワー不足とか小手先感とか感じるよなー、みたいな。
で、生バンドで歌うとボーカル消えてたり、録音と全然違う感じになったりねー。
ロキ○ン系とか最近わりとみんなフニャフニャしたミドルボイスでフニャフニャ歌ってるじゃないですか(偏見)。
どっちがいいかは好み次第か。