復習
母音は「母音の作られる位置と、唇をどのくらいすぼめたか」によって決まります。
母音の作られる位置は、
・上下→口をどのくらい開けたか、舌をどのくらい上げたか
・前後→舌のどの位置が最も高くなるか
によって決まります。
唇をすぼめた母音が円唇母音、唇を特にすぼめない母音を非円唇母音と言います。
上の図を大幅に略すとこんな感じ。
狭く、前で作られる母音が「い」、最も広い母音が「あ」、狭く、後ろで作られる(唇もすぼめた)母音が「う」となります。
母音の「上下」「広狭」について
で、前回も話した通り、この母音のV字モデルは、大きくしたり小さくしたり、前後左右に偏らせたりすることができるわけです。
今回は「上下」「広狭」について話すわけですが、「上下に偏らせること」もできるわけ。
・極端に上に偏らせた(ほとんど下顎を下げない)状態
全体的に「い」や「う」を混ぜたような母音。
狭い母音。
・極端に下に偏らせた(大きく下顎を下げた)状態
全体的に「あ」を混ぜたような母音。
広い母音。
口の開き(下顎の位置)や舌の高さを固定したまま、舌の高い部分の変化だけで母音調整をした状態ね。
一応どっちでもギリギリ「あいうえお」には聞こえるけど、発音記号は違うので、厳密には違う母音ということにはなるし、実際聞こえ方は全然違うと思います。
今日のエクササイズ
・口をほとんど縦に開かず、舌を口蓋(上顎)に近づけた状態で
・舌の前後を上げ下げすることで
・い→え→あ→お→う、う→お→あ→え→い、などと発音してみる
・今度は逆に口を大きく開け(下顎を下ろし)、舌をあまり上に上げないように注意し
・舌の前後を上げ下げすることで
・い→え→あ→お→う、う→お→あ→え→い、などと発音してみる
・両者を交互にやってみて、違いを観察する
・声の響きの違いなどに注目する
・また、高音や低音も出してみて、それぞれの状態での出しやすさ、響きやすさも観察する
母音の上下と「声の響き」1
基本的には、
・狭い母音(母音を上で作る)ほど、高音を響かせやすい
・広い母音(母音を下で作る)ほど、低音を響かせやすい
という関係になっているはずです。
ほとんどの楽器で、「高音を鳴らす楽器(低音を響かせる部分)は小さかったり短かったりする」「低音を鳴らす楽器(低音を響かせる部分)は、大きかったり長かったりする」という傾向がありますよね。
高音ほど波長が短いので、上手いこと共鳴させるのには短い(or狭い)共鳴空間が必要。
低音は波長が長いので、長い(or広い)共鳴空間が必要。
また、倍音に関しても概ね同じような傾向がありますので、
・口内を狭く取る(母音を上で作る)と、高めの倍音が響きやすく、明るく鋭い響きになりやすい
・口内を広く取る(母音を下で作る)と、低めの倍音が響きやすく、太く柔らかな響きになりやすい
という関係になっているはずです。
※ただし、狭い母音は「唇の開き」も小さくなりがちなので、そうなってしまうと高い倍音がミュートされてしまい、全然「響きの無い声」になってしまう場合もある。
なので、出したい音域や声質に応じて口の開き方や舌の高さをコントロールしてやると、声の響きやすさが変わってくるでしょう。
母音の上下と「声の響き」2
また、「感覚」の話をすると、
・狭い母音(母音を上で作る)ほど、身体や顔の上の方に響きを感じる
・広い母音(母音を下で作る)ほど、身体や顔の下の方に響きを感じる
という傾向があります。
よく、「頭、鼻腔に響く声」とか「下顎、胸郭に響く声」とか言いますが、これは大部分が実際に鼻や胸に響いているわけではなく、
・口腔内の上の方で響きを作った狭い母音→頭や鼻腔が振動しているように感じやすい
・口腔内の下の方で響きを作った広い母音→下顎や胸が振動しているように感じやすい
…ってことになってます、一般的に。
なので、アマチュア合唱界隈などではよく「声を下の方に響かせないで!響きを上げて!」だの「頭頂部から声が抜けるように!」だのよくわからんことを言われますが、それはつまりけっこうな確率で「無駄に大きく口を開けるな」という意味に翻訳できるかと思います。
※あくまで感覚の話なので、けっこう個人差があるので断定はできない。
母音の上下と「喉の筋肉」
声帯を動かして声の高さや質などをコントロールする筋肉には、大まかに分けて「声帯を引き伸ばす筋肉」と「声帯を閉じる(縮める)筋肉」があるということは、ちょっとボイトレについて調べている人なら知っているかと思います。
で、「声帯を引き伸ばす筋肉」を優位に働かせると「ヘッドボイス」とか「裏声」とか呼ばれる声になりやすく、「声帯を閉じる(縮める)筋肉」を優位に働かせると「チェストボイス」とか「地声」とか呼ばれる声になりやすい。
※この辺は記事の本筋上詳しく説明できないので、だいぶ省略しているので、詳しくは他をあたってください。
で、この喉の筋肉のバランスと口の開け方は強く関連していて、
・下顎をあまり下げない(母音を上で作る)と、「声帯を引き伸ばす筋肉」が働きやすい
・下顎を大きく下げる(母音を下で作る)と、「声帯を閉じる(縮める)筋肉」が働きやすい
…という関係になっています。
一般的には、以下のような感じになってきます。
・「狭い(上の)母音」のメリット…裏声(ヘッドボイス・ファルセット)が出しやすく、軽やかな声が出しやすい
・「狭い(上の)母音」のデメリット…地声(チェストボイス)が出しにくくて、声が簡単に裏返ってしまいやすく、力強い高音が出せない
・「広い(下の)母音」のメリット…地声(チェストボイス)が出しやすく、力強い声が出しやすい
・「広い(下の)母音」のデメリット…裏声(ヘッドボイス・ファルセット)が出しにくく、高音でがなってしまいやすく、声が重々しくなったり喉を痛めたりしやすい
…という感じ。
まとめ
このような感じになっているので、
「基本的には、低音ほど大きく口を開き(下の方で母音を作り)、高音ではあまり口を開けすぎないようにする(上の方で母音を作る)」
というのが、比較的自然に適ったやり方ではないかと言える。
その上で、
「高音・高次倍音を重視したい」…母音を狭くする
「低音・低次倍音を重視したい」…母音を広くする
「もっと響きを上に上げたい」…母音を狭くする
「もっと響きを下に下げたい」…母音を広くする
「声帯を軽く使った、軽やかな声を出したい」…母音を狭くする
「声帯を重く使った、力強い声を出したい」…母音を広くする
「高音では裏声を混ぜて抜いていきたい」…母音を狭くする
「高音でもできるかぎり地声っぽさを引っ張りたい」…母音を広くする
…などという形で、目的に応じて自分なりに調整していくといいでしょう。